ヴォイス・オブ・ヘドウィグ ★★★★★

ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のトリビュートアルバム『Wig in a Box』の作成風景と、本アルバムのチャリティー対象のハーヴェイ・ミルク・ハイスクールで過ごす学生たちの姿を撮ったドキュメンタリー映画
現実にゲイとして過ごす子どもたちの姿を観ながら合間に挿入される楽曲を聴いていて感じたのは、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』よりも歌詞が印象深いということ。ここまではみ出し者の心境を歌ったものだったとはなあ。思わず映画を再見したくなった。
生徒たちは其々自分がはみ出し者だという認識を持っていても、しみったれないでモデルをやったり、大学に進んだりして自分の道を歩んでいく。その姿に感動した。彼らのインタビューを観ていると、自分自身であるということの大切さ分かっているというか、自分自身でしか生きれられないという気持ちの強さを感じる。ゲイだと肉親から理解を得られない場合だってあるだろうし、その葛藤を乗り越えてそれでもゲイとして生きているのだからなおさらだろう。もちろんゲイではない人にだって自分自身でいられないときに感じる違和感はあると思うけれど、やはり彼らには頭が上がらない。
音楽面では、プロジェクトの中心人物がクリス・スルサレンコということが特筆すべき点。近年のロバート・ポラード関連作品でトッド・トバイアスと同様に重要性がどんどん増している彼だけど、こんなに凄い人だったのですね。
ジョナサン・リッチマン、ザ・ポリフォニック・スプリー、マイナス5、オノ・ヨーコシンディ・ローパー、ヨ・ラ・テンゴ、ベンフォールズ、ベン・リー、ベン・クウェラー、フランク・ブラック、ブリーダーズルーファス・ウェインライトゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツといった錚々たる面子を集めることができたのは素晴らしいとしか言いようがない。
一番印象的だったのはジョナサン・リッチマン。彼だけオリジナル曲を演奏しているという奔放さに加えて、佇まいの大らかさ、飄々とした態度に只者ではない貫禄のなさ。なんなのだろうこの全て悟ったような感じは。ライヴが観たい。
リーダーズのディール姉妹による「Wicked Little Town (Hedwig Version)」はカヴァーだけど、彼女たちの作品でも5本の指に入る名曲だと思う。スティール・ギターのような温かい音色が素晴らしい。デモを吹き込んだ留守電ヴァージョンも聴きたいなあ。
ベン・クウェラーの青少年っぷりにも心を打たれた。なんてひょろっとしてるのだろう。いつも日陰にいそうな感じが素晴らしい。ベンズの三人のインタビューでは他のベンが1インチのチンコについてケラケラ笑っている中、彼がアウトサイダーについて一番わかっている発言をしていたのは嬉しい。
フランク・ブラック(インタビューが無かったのは残念)は『Show Me Your Tears』時代のシャツを着ていた。ギターのリード・ペイリーが映画に出ているというだけでうれしい。
ルーファス・ウェインライトは歌がとても上手で断トツだった。オノ・ヨーコは監督に歌い出しの合図を頼んだりして年齢を感じされたけど、ファッションはとても若くて感心した。シンディ・ローパーの「Midnight Radio」は丁度学校のプロムの場面(少年がプロムクイーンになる)で流れていた。このシーンで「ハイスクールはダンステリア」を歌っていた彼女が使われてることに勝手にぐっときた。
本作を観てクリスがビデオ店を経営していたと初めて知った。同時期にオフ・レコーズのレーベル・オーナーとしても活動していたということだよなあ。マジで尊敬しますよ。ラストではその後彼がGBVに招かれたというエピソードもちゃっかり入っているのが微笑ましい。ロバートとは『Colonel Jeffrey Pumpernickel - A Concept Album』や『The COMPLETED Soundtrack for the Tropic of Nipples』で関わっていたので、おそらくそれらが縁だと思う。

GBV好き、FB好き、ブリーダーズ好きは必見。