「の・ようなもの」 ★★★★★

随所にちりばめられたギャグがとても面白し。今まで観た邦画の中では一番自分に近い刹那感溢れるギャグセンス。いきなり胴上げしたり、内海好江の幻覚?とも思える一瞬や、天気予想とか爆笑しそうになる。「バス男」に通ずる単発ギャグで構成するところが壷にはまる。ピンク映画好きな人も気に入ると思う。唯一いらないと思ったのは関根勤くらい。
落語やっている人たちの表情が本当に芋っぽくて素晴らしい。仲間うちではしゃいでいるんだけど、「サマータイムマシン・ブルース」みたいなサークル馴れ合い感を全然感じないんだよなあ。他人に対する敬意を感じる。やっぱり芸人どうしだから師弟関係が根底にあるのかな。俺は断然こっちの方が観ていて楽しい。
伊藤克信小泉孝太郎似)演じる朴訥とした志ん魚は奇跡的なはまり役だし、童貞じゃないっていう設定もセックスに対するコンプレックスやトルコ風呂に対する過度な期待や畏れを感じさせず、本作の軽みを増すのに一役買っていて最高!
秋吉久美子が演じるトルコ嬢のエリザベスさんはけだるい感じでさばさばしているのが堪らない。彼女が他の男とやっているシーンが出てこないで、マットの水洗いシーンだけ映るのも気が利いている。
落研の女子高生との別れや、師匠の遠まわしなだけにやさしさが伝わって痛い指導を経て志ん魚が情景描写しながら街を闊歩するシーンは、ふつふつと湧き上がる反骨精神にぐっと来る。クラフトワークとかを聴いている音楽好きな兄弟弟子の大野貴保は将来落語やんなそう感が溢れていて切ない。
尾藤イサオがようやく真打ちに昇進したっていうエピソードはひょっとして彼の法螺なんじゃないかと勘くぐってしまい、お祝いの席で彼が見せたひょうきんな表情もやっちまった感が滲み出ているようでこれまた切なかった。あとこの後でみんながスクリーンからポツポツと捌けていくシーンや、エリザベスさんが車をかっ飛ばして引っ越してしまうシーンを観て、人生っていろんな人と交差するけど、それは刹那で結局最後は一人だから自分の道を一人で進むしかないんだなと思った。交差することで確かに残るものを胸に秘めてな。芸人見習い中の人はもちろんのこと、自分の将来について悩んでいる人、就職活動中の学生が観たらきっと心に残ると思う。